2007年10月18日
講師:佐藤利光 氏
投資は非常に難しいものです。ですから投資の世界では、長く生き残ることが一番大切です。個人投資家で3年以上相場に残っている人は、証券会社や銀行のディーラーなどのプロのディーラーよりもディーリングが上手かもしれません。今春、FXで4億円儲けた主婦が脱税容疑で国税庁から告発された件が新聞を賑わせましたが、あの方は天才だと思います。彼女には外国為替取引に対して持って生まれた才能があるのだと思います。あのニュースを見て、FXは儲かるものだと思って始めた方はたくさんいると思いますが、簡単に儲けられる人はほとんどいないと思います。天才の真似をして大儲けを期待してはいけません。それよりも相場で長く生き残ることを目指していくことが大切です。
天才でなくても、FX取引で確実に儲けている人はいます。彼らは、一様に、FX取引をしながら、常に研究し、自分自身の取引手法を会得しています。皆さんも、人の意見に左右されない、自分自身の取引手法を一日も早く身に着けていただきたいと思います。
その為には、外国為替とはなにか? 外国為替相場とはなにか? など外国為替の基礎的な知識と外国為替相場の歴史およびFX取引の仕組みをきちんと理解することが重要です。
本題に入る前に、先ほど皆さんにお伺いしたところ、FX取引経験が1年以下と比較的初心者のかたが多いようでしたので、FX取引を始めるにあたって、一番気をつけるべきことをお話します。それは業者の選択です。
取引業者が倒産すると、預けておいた証拠金が返還されないということがあるからです。
FX会社は現在約120社ですが、生き残り競争が激化している業界ですから、倒産する企業も出てくる可能性があります。
過去の例を紹介しますと、2005年10月にレフコFX破産というFX業界最大の倒産事件が起きました。レフコFXのことをご存知の方はいらっしゃいますか? 誰もいないようですから、簡単にお話します。
レフコFXは米国大手商品先物会社「レフコ」の子会社で、日本では、日本法人のレフコFXジャパンを設立して、顧客勧誘を行いました。2005年に入ると日本で初めて手数料を無料にしました。4月~5月ごろにインターネットで手数料無料が投資家に評判となり、短期間で口座数をで増やし、約1万5000口座となりました。それから半年もたたない2005年10月にレフコFXの親会社であるレフコの経営が破たんしてしまい、レフコFXも破産しました。レフコFXジャパンの売り文句は、「レフコFXが倒産してもCFTC(米商品先物取引委員会)登録業者である親会社のレフコが業務を継続する。レフコが倒産した場合は法令により分別管理をしているので、証拠金を100%返金する」というものでした。ところが、破産裁判の過程で、レフコFXの証拠金がほとんど返金されない可能性が出てきたのです。結局このケースは日本の投資家がレフコFXジャパンを東京地裁に提訴する事態になり発展しました。そして、今年7月に和解によりある程度は返金されましたが、残念ながら、「証拠金は分離保管により全額返還」と謳ったホームページの勧誘文言は反故にされました。世界的な規模の会社であるレフコでさえも倒産したということを教訓として、こういう業者のリスクには特に注意していただきたいと思います。
さて、本題に入りますが、先ずFX取引の仕組みからお話しましょう。
この図の中で、投資家とFX会社の為替取引については、よくご存知の通りなので省略し、ここでは、投資家と取引したFX会社は、為替ポジションをどのような仕組みで処理しているのかをお話しましょう。あるベテラン投資家から、「僕が利益を出すということは業者が損をする、という仕組みになっているとは思わないが、どのように処理しているか分からないので、教えてほしい」と質問があり、お話したという経験がありますので、皆さんも興味があることだろうと思います。
さて、あなたが10万ドルの買いポジションを持った時、FX会社は10万ドルの売りポジションを持つことになります。では、あなたが儲ければ、売っているFX会社はその分損するのでしょうか? そうではありません。
FX会社は、10万ドルの売りポジションに対して、為替取引契約をしている銀行や大手FX会社(カウンターパーティーと言います)から、すぐに10万ドルを買います。これでFX会社のポジションはゼロとなりますので、相場変動リスクはなくなります。仮にあなたへの売りと買いのスプレッドが5ポイント、カウンターパーティーからの売りと買いのスプレッドが3ポイントとしますと、FX会社は1ポイントくらいの利益になります。
もし、あなたがとったポジションの反対売買をして、すぐにポジションをゼロにするのではなく、相場の動向をしばらく見ながら反対売買をすると、1ポイント以上の利益を得ることもできます。外国為替取引は相対取引ですから、このようなことができるのです。
また、外国為替取引は相対取引ですから、同日、同時間にA会社では117円50銭で売られていたものがB会社では117円53銭で売られることもありえます。一方、株式の場合、証券会社は、顧客から特定の株の売買注文を委託され、その注文をそのまま東京証券取引所につなぎます。値をつけるのは東京証券取引所ですから、同時刻に成立した取引は、全て同じ価格になります。つまり、株式は一物一価です。
次にFX会社に売った10万ドルのポジションをカウンターパーティーである銀行はどのように処理するのかお話しましょう。
FX会社に10万ドル売ったカウンターパーティー(銀行)は、10万ドルを別の銀行から買う必要がありますが、そのためには10万ドルを売りたい銀行を見つけなければなりません。個別の銀行は、お互いにどこの銀行が売りサイドでどこの銀行が買いサイドか、いちいち確かめることは不可能です。そこで、銀行同士の売買を仲介する業者が必要となります。銀行間の為替取引を仲介する業者のことを、為替ブローカーあるいは単にブローカーと言います。
一般に、ブローカー経由の外国為替取引をインターバンク外国為替市場と言います。
為替取引をしたい銀行はブローカーに売買注文を出します。ブローカーは数社ありますが、銀行はそれぞれのブローカーに売りまたは買いの注文を出します。注文は一つのブローカーに出すこともあり、複数のブローカーに出すこともあります。
インターバンク市場での取引単位は、100万ドル単位が一般的です。銀行がブローカーに出す売買注文は数百万ドルが普通ですので、一度に1千万ドル以上の大口の為替取引をしたい場合には、複数のブローカーに注文を出すことが良くあります。
銀行がどこのブローカーを使うかは銀行のディーラーとブローカーの相性などによります。複数の銀行がブローカーに出している売買注文のうち一番高い買いレート、そして一番安い売りレートがそのブローカーの外国為替市場の実勢相場になります。
例えば市場実勢相場が114.30-35とします。35銭の買い注文が出て、35銭の売り注文が買われます。35銭の売り注文がなくなりますと、次の最も安い売り相場が40銭になりますと、市場実勢相場は114.30-40となりますが、すぐに35銭の買い注文がでると、相場は114.35-40となります。40銭が買われると、相場はさらに上がり、114.40-45となります。このようにして相場が動いていきます。
一般的に、買い注文が多ければ相場は上昇していきます。逆に売り注文が多ければ相場は下がります。しかし、各銀行は取引したい金額の一部だけの売買注文を出すこともありますので、相場が上がるか下がるかは、売買注文の多少よりも、実際に、売り注文が買われるか、買い注文が売られるかによって相場が上下することになります。
インターバンク外国為替市場では、このようにブローカー経由の取引が多いですが、特定の銀行間で直接取引されることもあります。この直接取引もインターバンク外国為替市場取引の一部ですが、この取引は当事者同士しか分かりません。この取引が大口取引であれば、ブローカー経由の外国為替市場相場を大きく動かすこともあります。
あなたが取引したFX取引は、このようにして、外国為替市場取引の一部となっていることと思うと、FX取引に新たな思いが湧き出るのではないのでしょうか。
現在、外国為替市場では1日合計約3兆ドルの取引量があると言われています。
私が銀行で外国為替ディーリング部門の責任者をしていたバブル景気のころ、ほとんどの銀行が為替収益を国際業務部門収益の柱の一つとして、派手に為替ディーリングをやっていました。当時の為替取引量が1日1兆ドルでしたので、その当時と比べると3倍も取引量が多くなっています。インターネット取引の普及がこれだけの大きな取引量を可能にしました。さらに、当時はなかった外国為替証拠金取引(FX取引)が取引量の増大に大きな貢献をしています。
つまり、皆さんのFX取引が3兆ドルの一部となっているのです。さらに、皆さんが実感してはいないと思いますが、たとえその日に取引しなくても、ポジションを維持していれば、毎日3兆ドルの一部の取引をしていることになるのです。
なぜなら、皆さんがポジションを翌日に持ち越すことは、FX会社と毎日スワップ取引をしていることになるからです。投資家とFX会社およびFX会社と銀行は証拠金取引ですから、スワップ取引を行いますが、通貨の交換を行わず、スワップポイントの受渡しのみを行います。しかし、カウンターパーティーである銀行はインターバンク市場で毎日スワップ取引を行い、その度に通貨交換を行います。そのスワップ取引が3兆ドルの大きな部分を占めています。あなたが毎日スワップポイントを受け取る背景にはこのようなインターバンク市場の取引があるからです。
ところで、為替ディーラーがなぜ為替ディーリングを行うのかというと、顧客から為替取引依頼があると、取引相場を提示し、さらに取引に応じるのが彼らの業務だからです。
銀行の顧客には、商社や輸出入業者、外国の債券や株などの投資信託の運用マネージャーなどです。
為替ディーラーはこれらの顧客の取引依頼に応じると、売買どちらかのポジションを持つことになります。為替ディーラーは、ポジションが市場取引単位以上であれば、相場変動リスク回避の観点から、3銭,4銭でも利益が出ればすぐに収益を確定させ、ポジションをできるだけ少なくします。為替ディーラーはこのように、相場が上がるか下がるかに関係なく、顧客からの一取引により、必然的に為替ポジションを持たされることになります。この場合、そのポジションがたとえ数銭でも収益があれば、機械的にポジションを決済して収益を確定することが多く、その取引を一日何回となく行うのです。
一方、個人投資家は、最初にポジションを持つタイミングを、自分で判断しなければなりません。最初にポジションを持つ場合、その判断が非常に難しいことは、皆さんがFX取引をして感じておられる通りです。
為替ディーラーでも、顧客取引とは関係なく、自ら積極的にポジションを持ち、売買収益を稼ぐ、プロップトレーダーがいます。彼らは、一様に自分の取引手法を持ち合わせた為替取引の専門家です。その彼らでさえ、数年間という長期間勝ち続けることはほとんど不可能です。
しかし、私が親しくしている個人投資家の中に、長年勝ち続けている人もいます。だから私はプロよりも長く生き残っている個人のほうが優秀だと思っています。
では、相場で長く生き残るにはどうしたら良いか?
それは自分なりの取引手法を見つけることなのです。
(後編へつづく)

佐藤利光 氏
1967年日本信託銀行(現三菱UFJ信託銀行)に入行と同時に国際部に配属。同行で外国為替業務に約20年間、資金運用部門に約10年従事。1ドル360円の固定相場制時代から為替ディーラーを務める。同行資金為替部長などを経てから、2001年7月、仲間と共にFX会社を設立し、代表取締役就任。銀行出身者として、最初にFX業界に参入。2003年4月、「FX市場の健全なる発展」を目指し、国際投資アドバイザーとして独立。同時に、FX会社に対して業務コンサルティングを開始。
中小企業経営者向け「貿易セミナー」や銀行業務の「社員研修」講師経験豊富。特定の企業に属さず中立的な立場から、個人投資家に「FX取引およびそのリスク管理」などの情報を連載記事を通じて発信。「投資家に支持されるためのFX業務アドバイス」および「社員の業務知識向上のための社員教育」を提案。
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